電車という乗り物では、ときに小さなドラマが展開されることがある。
それが昨日・今日と立て続けに起こるという、何とも得なのか損なのかわからないことがあった。
本当にたいしたことなく小さなことなのだが、まぁちょっと書き留めておきたい。
怒号
昨日のこと。
ある駅に到着したとき、7人がけ椅子の中央に座っていた中年男性が、ドアへ向かった。
そのとき、2つ隣に座っていた高校生に向け、ひとこと怒号を浴びせた。
高校生は目がテンになり、何が起こったのかわからない。
それはまわりの客も同じだったらしく、頭の上に「?」を浮かべる。
残念ながら僕の距離から言葉を聞き取ることはできず、同じく首をかしげるばかり。
「何かやったんか?」
「いえ、別に・・・」
高校生に声をかけたのは、高校生のすぐ向かいに立っていた中年サラリーマン。
すると、すかさず満面の笑みを浮かべ、片手を大きく横に振りながら、
「じゃあ気にせんでええで、気にしなや」
となだめる。
隣にいたおじいさんも、高校生を見つめながら、笑顔で深くうなずく。
何て美しい笑顔なのだろう。
人は何かしら、不条理をふっかけると動揺するものである。
その気持を察した上で、まわりの大人が最大限になだめて、少しでも動揺しないようケアしているのである。
あまりに見事なまわりの対応に、僕も満面の笑みを浮かべた。
ただ残念ながら、僕のぶんは高校生にはまったく見向きもされなかった。
カバン
今日のこと。
ある駅に到着したとき、立っている僕の右ななめに座っていた中年が、ふと眠りから目覚めた。
するとどうだ、目がきっと見開き、前にいる人のカバンの取手をガッシリつかむ。
ああ、知り合いか。
と一瞬は思ったが、カバンをつかまれた人は、目がテンになっている。
5秒ほどして、中年は急にぱっと手を離すと、再び眠りについた。
もしかして、持病か何かで助けを求めているのか?
と心配したが、どう見ても苦しんでいる様子はない。
少しの沈黙の後、カバンをつかまれた人と、その様子を見ていた人が顔を合わせて笑顔を交わす。
何とも不可解な現象に対する、共感をあらわす笑いである。
思わず僕も、笑みを浮かべた。
が、なぜだろうか隣に立つその人は、まったく僕に目を合わせない。