キックボード旅人の日常

キックボード旅人による、旅の話とか日常のこと。

サバイバル廃村キャンプ【2】

川にスタッグした車から一旦はなれ、3人が向かったのは、ほんの一筋の希望。
廃村に到着したときから停まってあった、車である。
もしこの車が今日使われたものであれば、オーナーが戻ってくる可能性がある。

車をのぞいてみた。
靴が履き替えられたであろう痕跡がある。
車検も、ギリギリ生きている。

「待ってみる?」
と誰かが言ったところで、前輪が思いっきりパンクしていることに気がついた。
いかん、これは放置車だ!


肩を落としながら、とりあえずもう少し車を押し上げることにした。

ここで突然、人が村から出てきたらなぁ~、などと夢物語を浮かべつつ、スタッグした車に戻る。
村からゆっくり歩み寄る人々の幻想が、ぼんやりとかすめて見える。
絶望のさなか見る幻想は、やけにリアルに見えるものだ。

幻想・・・
いや、違う。
人だ!

村から、3人の男性が歩いて来ているではないか!
いずれも60歳代だろうか、明らかに団塊世代の方々だ。


ためらう余地はない。
いったん林道を降りて、ロードサービスを呼んでもらうよう、お願いした。

「いやいや、行けるって!」
若い3人とはうらはらに、妙に自信のある表情がかえってきた。
2時間やってもまったく先へ進めなかったことを知ってる僕らにとっては、その言葉も虚しく聞こえた。

とりあえず、促されるまま車を一旦バックし、加速をつけて再チャレンジ。
「おら行けぇ~!」「押せぇ~!」
まるでお祭りのように豪快なかけ声をあげ、ドライバをのぞく5人で後ろから押す。

するとどうだ、一発で見事脱出!
狐につままれた気分の若人チームと、「ほら見てみぃ」と自信満々の団塊チーム。
多勢に支えられたという力学的なことより、絶対的に「脱出できる」という信念と自信が、結果を出したように感じた。

何度も何度もお礼を言うが、団塊チームは当然のことをしたと言わんばかりに、去って行った。
こういうときに、どういったことをするのがよいか、若人チームはわからない。
団塊チームの方々が見えなくなるまで、何度も頭を下げ、見送った。


偶然や奇跡の類に「科学的根拠」がないとすれば、科学なんてくそっくらえだと思う。

(つづく・次回完結)