キックボード旅人の日常

キックボード旅人による、旅の話とか日常のこと。

さぬき広島遍路とひるねこ生活~1日目~

盲点というか、自身の考えの甘さというか。

昨年よりミニ遍路に対して、本格的に力を入れている。
まずは近場から精査していこうと、近畿や中国地方の情報収集をして、それなりに近場はまわっている。

しかし、四国地方はまったく調べていなかった。
ミニではなく、本チャンの遍路があるためだろう。
改めて調べてみると、さすがは本場、ミニ遍路がごろごろ見つかる。

特に盲点だったのが、交通の便。
大阪から四国までは遠いものだと思っていたが、電車で3時間もかからないうちに行けることがわかった。
これはもう、行くしかないでしょ。

四国の、特に離島にある「島遍路」を重点的に調べ、今回ターゲットとなったのが「広島」。
名前が紛らわしいが、広島県ではなく香川県にある「広島」という島である。
昨年行った北木島と同じくらいの広さがあり、3連休で行くにはもってこいかと思われる。
おそらく3日もかからないので、隣の「手島」でも島遍路をするべく、行き先をこの広島にすることを決めた。


【広島へ】
午前9時過ぎに丸亀駅へ到着するや、すぐさま駅のすぐ横にあるスーパーへ。
今回予約した宿は素泊まりで、島に食堂もないということなので、事前に買い出しが必要となるのだ。
こういうときに実家暮らしは苦労するもので、何を買えばいいのかわからない。

とりあえず、ここへ来るまでの電車で考えた買い出しメモを片手に買い物をする。
しかし、スーパーにも来慣れていないためか、いろいろと目移りしては、迷ってしまう。
結果、精算が終わって商品を詰めたころには、渡船出発15分前。
あわてて渡船乗り場へ向かうも、途中で逆方法に進んでいることがわかり、重い荷物を抱えたままダッシュをすることに。

離島でのんびりするつもりが、こんなところでバタバタしてしまった。
なお、渡船には時間ギリギリ間に合い、何とか予定どおり広島へ。


【GHひるねこ】

渡船を降りるや、1人の女性が立っている。
ひと目見て、僕を待ってくれていることがわかる。

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今回の宿は、広島のゲストハウスである。
亀岡から広島への玄関口である「江の浦」が島の南方にあるのに対して、このゲストハウスは北方に位置する。
だから、わざわざ出迎えをしてくれていたのだ。

車に乗り込むと、宿までの10分間、いろいろ島の情報を教えてくださった。
いつもは人が少ないが、たまたま彼岸と重なり、今週末は島に来る人が多いこと。
この界隈の塩飽諸島でも、特に面積が広いことから「広島」と名付けられたこと。
島にある王頭山の山頂付近は庭園みたいになっており、明日・あさって丸亀から多くの人が来ること。

やがてゲストハウス「ひるねこ」へ到着すると、今度はご主人さんも出迎えてくれる。
古民家を改修したというこのゲストハウス、キッチンと部屋が3つあり、縁側があったり、庭があったりと、まるで田舎に帰ってきたかのよう。
なお、隣にある畑でできた野菜や果物は、勝手に取って調理してOKだそうな。

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この2日間、客は僕のみらしい。
久しぶりのドミトリータイプの宿で、旅人とのコミュニケーションを楽しみにしていたので、ちょっと残念である。
でも、このじゅうぶんな広さのある古民家を、独り占めできることは何より贅沢である。


【広島の文化】
荷物を置いた後、夫婦の住む母屋へ案内される。
そこにはさまざまな書物があり、この広島を知るには十分すぎる量がある。
何ならこの広島を知るために、文献あさりで3日使えそうである。

中でも興味を惹いたのが、毎年旧正月に行われている「百々手神事」。
村人が裃(かみしも)を着て、弓矢で的を射抜く手腕を競うというもの。
的や矢など、毎年すべて手作業で作成するそうで、準備にまる2日かかるとのこと。

また、最後に丘の上にある神社へ行き、山へ向かってみんなで矢を射る。
その矢を持ち帰り玄関先に飾る、というところまでが行事らしい。
なるほど、集落を散策すると、どの家屋にも矢が飾られていることがわかる。

ご主人いわく、行事として代々続けられていたが、その風習の意味は風化されていて、誰も知らない状態だったという。
それが最近になり、見つかった古文書が解読され、行事がより昔のころの風習に寄せられているそうな。

ちなみに、塩飽諸島一帯には海賊がおり、有名な村上水軍が誇る「武力」に対し、こちらは「技術」に定評があり、精度の高い造船などをしていたらしい。
その技術を見込まれ、島民は武士としての称号を与えられた。
祭りで袴の衣装を着るのも、その武士としての称号になぞらえたものらしい。


【島の東部】
1時間ほどのお話の後、ゲストハウスへ戻る。
寒いけれども雰囲気を楽しむべく、庭にあるテーブルで昼食をいただく。

食後すぐさま、散策に出かける。
島を時計回りにまわるべく、まずは島の東部を南下する。

道は両隣が藪に囲まれており、何もない。
海沿いの道にもかかわらず、海が臨めるのはごく限られた場所だけ。
坂道のアップダウンも激しく、体力が徐々に奪われていく。

ただ、時おり石垣や加工された岩などの人工物を発見する。
昔はこの地域にも生活があり、栄えていたのかな?
ということを想像しながら歩くのは楽しい。
許されるのなら、ここいらの藪をすべて取り除いて石垣の跡地の全貌を見てみたいものだ。

いつまで続くのかと思えるくらい、えんえん無機質な道は続く。

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【お遍路】
お遍路の詳細は、別サイトで紹介するので詳細は割愛。
年に1度「お大師さん」といって、お遍路めぐりをする文化があると聞いていたが、思っていたより散策は難儀する。
宿に戻ったのは、すっかり遅くなり午後6時過ぎ。

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【1泊目・夕食】
宿につくや、テーブルに料理が置かれていた。
「何か一品はお出しします」とお宿の人から聞いていたが、思わず目を疑う。
「骨付き鶏」「たことわかめの酢の物」「海藻」の3品が用意されている。
骨付き鶏は香川名物で、お店だと1,000円近くする代物である。
また酢の物のわかめは、磯の風味が強く、都心ではまずいただけない鮮度である。
なるほど、「一品」ではなく、「逸品」ということだったのか。

少食の方なら、これでじゅうぶん夕食となるだろう。
とても「素泊まり」とは思えない。

※たまたま閑散期で客ひとりだったためサービスをいただいたかも知れません。
 必ずしも宿泊者すべてがいただけるわけではない、ということを補足しておきます。

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キッチンでは電子レンジや食器乾燥機、トイレでは洗浄便器と、古民家とはいえ近代的な家電が揃っている。
しかし、テレビは置かれていない。
夕食はテレビを見ながら、ということが体に染み付いてしまっているため、何とも落ち着かない。

しかし、徐々にその意味がわかってくる。
静けさを満喫できるのだ。
ふだん、いかにテレビという機器に時間を奪われ、時間を支配されているかがわかる。
時間を忘れ、食事と酒だけに意識を集めることができるのだ。

食後も静かで、さすがに孤独感は隠しきれないので、酒で紛らす。
おおぜいでワイワイ飲む酒もいいが、こうして静かにしっぽり飲むのもいいものだ。

さらに時間を余すので、ご近所を散歩することに。
初春の夜は寒いが、しっかり着込むとそれほどでもない。
静かな路地を抜け数分歩いたところに、海岸がある。
海から離れた場所で育った者として、こうして夜の海を眺めるなんて新鮮でたまらない。

また、目が暗闇に慣れたころ空を見上げると、満天の空。
旅行とは現実逃避をする場所と認識しているが、ここまでかけ離れられる場所というのも珍しい。
つくづく、この島に来てよかったと痛感する。