キックボード旅人の日常

キックボード旅人による、旅の話とか日常のこと。

喫煙レトロ

決して入ったことのない空間を、同僚と2人で観察していた。
ガラス越しに広がるのは、見事なまでの、黄色い風景。
ガラスが黄色いからそう見えるのか、ガラスは透明だが中が黄色いのか。
何の結論もなく、さした意味のない会話を、たばこを吸わない2人で見ていた。

やがて、同僚がつぶやく。
卓球場や、ビリヤード場を思い出す、と。
かくいう僕も、地方にありそうな喫茶店を思い出していた。

いずれも、新しい施設というわけではなく、昔ながらの空間。
もっというなら、昭和の記憶をよみがえらせられている、というか。
そこにあるのは、レトロという情景そのものであった。


分煙という文化は、それこそ喫煙者を迫害するかのような形で、想像以上の勢いで広がった。
会社のオフィスも喫茶店も、街の至る空間から、黄バミが消えた。
少なくとも、たばこを吸わない僕にとっては、ありがたいことである。

が、黄バミのある壁やガラス、それにまみれた風景に、どこか「なつかしさ」を感じる。
子どものころ抱いていた父親像、ひいては「大人」としてのイメージは、そのような空間に足を踏み入れることにあったような気がする。


父親たちが活躍した時代、古きよきあの風景には、もう出会うことができないのだろうか。
その答えを誰に問おうとて、「時代の流れだ」とかいうあいまいな言葉で、煙に巻かれるだけであろう。